「ちーっす」
「今日和」
「・・・こんにち・・・は」
・・・疲れた。
二人とも機嫌がいいんだか悪いんだかで、結局あのまま引きずられてしまった。
こっちの身にもなってみろよって感じで。
まったく。
音楽室の中にばたっと倒れ込む。
「アヤヤン、どしたの?」
「かーんーざーきー?」
うるさい。
むくっと起き上がる。
辺りを見回すと、昨日と同様、南と由奈がいた。
「あっれーどうしたの?」
「綾さん、何があったんですか?・・・まさかっ、病気とか・・・」
・・・南は心配性だからね。
仕方がないよね。
後ろの二人を指差した。
「こいつ達のせい」
「綾ってば、酷いよー。別に何にもしてないじゃんか」
「そうだよ。一緒にきただけだろ」
・・・こいつらなぁ・・・
「まあいいや。そういえば、あれから大丈夫だった?」
南と由奈に訊ねる。
由奈は満面の笑顔でいった。
「大丈夫だよー。昨日はちょっとごめんね。私言い過ぎたかも」
南は南で
「ええ、あれから落ち着いていましたし・・・無事に帰れましたよ」
と、生真面目に応えてくれた。
この人、疲れないのかな。
「そう・・・それならよかった」
すると、榊が由奈に話しかけた。
「由奈ちゃん、おばさんのことを話してもいいかな?」
由奈は「もう平気だよ」と言った。
ホントにいいのか?
「それより、ちょっと練習しようぜ」
それを言ったのは葵だった。
「そうですね。その話はまた後ということで・・・一応部活の時間ですから」
そういえば、昨日は練習どころじゃなかったから。
それに由奈のトランペットや、榊のヴァイオリンの音も聴けなかったし。
「じゃあ、練習開始ってことで」
各自で楽器の用意をした。
私はピアノの椅子に座り、鍵盤の上に指を乗せた。
「綾さん、お先にどうぞ」
南が言ってくれた。
合奏をするときもあるけど、今日はなんとなく・・・あの曲が弾きたくなったから。
それを南が分かってくれたみたい。
「じゃあ、遠慮なく」
ポーン
人差し指でソを鳴らした。
そして両手の指を動かす。
つながれる旋律
響く音
あの時、私の中にあったもの
楽譜がない曲
残されたメロディ
最後の音が響き渡り、曲は終わった。
すると、拍手が聞こえた。
振り向く。
榊だった。
「とてもよかったよ。曲もだけど、神崎の弾き方とか」
「・・・ども」
なんか複雑だ。
はずいのか、うれしいのか、嫌なのか、分からない。
そんな私の気持ちにはお構いなしなようで、「じゃあ、俺も弾かせてもらおうかな」と、ヴァイオリンを構えた。
葵が「俺が〜」と抗議をしているが、皆無視している。
弦をはじいてから、チューニングする。
それから弾き始めた。
なんだか聞いたことのあるような、でも初めて聞くような、そんなメロディ。
心に染み渡ってくる。
皆聞き入っている。
弓を華麗に引いて、終わった。
「はい」
にっこり笑って、言った。
「すげーな」
「とっても綺麗」
「感動したよぉ」
みんな、簡単に思ったことを口にしている。
それでも榊は何か待っているらしく、こっちを向いてにこにこしていた。
皆が私に注目している。
なぜかニヤニヤしている。
約一名をのぞいて。
そして、南の一言で謎が解けた。
「綾も何か言うことがあるんじゃないんですか?」
なるほど。
渋々言った。
「いいんじゃない?」
すると、さっきの何倍もうれしそうな笑顔になった。
「サンキュ」
そっぽを向く。
確かにさっきはちょっとかっこよかった。
なんだか顔が熱くなる。
「どうしたのぉ」
「そうですよ。なんか綾らしくないですよぉ」
うしろからなんか聞こえる。
「うるさい」
まったく。
顔のほてりがおさまってきたから、前を向いて言う。
「そんなこといわずに、練習しようよ」
「そだね」
皆笑っている。
さっきまでなぜかへこんでいた葵も。
私は笑えない。
だけど、心の中があったかくなってきた。
皆で練習をした。
一時間ほど。
事件のことは、すっかり忘れていた。
練習をしていると、水無月警部がやってきた。
「おっ、やってるねぇ。今日もお邪魔するよ」
とりあえず練習はおしまい。
楽器を片付ける。
っていっても、私はピアノだからふたを閉めるだけなのだけど。
榊に言う。
「じゃあ、ここから先はよろしくね」
榊は真剣な顔になり、うなずいた。
「これから昨日調べたことについて言うよ」
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