30分ほどたった後、やっと葵がやってきた。

「ごめーん。係会が長引いちゃって」

まだ、榊のことに気がついていないみたいだ。

相変わらず、金髪をチャラチャラさせながら、こっちに来た。

由奈は、気に入った楽譜を見付けたらしく、その曲について、南と語り合っていた。

楽しそうだ。

葵はやっと榊のことに気がついたらしく、決まり文句を言った。

「あれぇ、綾の隣にいるの、誰?奥であさってるのは、星野由奈だってわかるけど。一回見たことあるし」

もう、紹介するのがめんどくさいので、

榊に一言。

「自分でやれ」

こいつは分かったよ、と、簡潔に自己紹介。

「俺は今日転校して来た榊翔太だけど」

本当に簡単だった。

葵はそれでいいのか、

「あー俺は北村葵だ。よろしく」

意外とあっさり引き下がった。

相変わらず、ほんわかムード。

誰か練習始めないのか?

いや、全然ほんわかじゃなかった。

なんか葵が、榊をじっと見て、私のほうを見て、なんかいらっとしている。

そして私の手をいきなりつかんで、部屋の隅のほうに連れて行った。

もちろん拒否反応。

思いっきりつかんだ手をねじって、

「いきなり何すんのよ、このバカ」

怒鳴りつけた。

その様子を、約一名以外、興味深そうに見ている。

やめてくれ。

葵は、なぜか小声で訊いてきた。

「そんな大声出さなくてもいいじゃんか。あのな、その・・・」

「何?はっきり言ってよ」

一応私も小声で訊き返す。

葵はなぜか、緊張しているようだ。

しかし、決心したようで、簡潔に聞いてきた。

「あいつのことどう思う?」

あいつと言ったら、多分榊だろう。

何でそんなことを訊いてくるのやら。

一応応える。

「変」

本音のつもりだ。

葵はなぜか安心したようで、

「それならいいんだけど・・・」

とてもうれしそうだ。

ちゃっかり腕をつかんでいる。

そんな腕を振り払って、指定席に戻る。

そして、ふと思い出し、ピアノをいじっていた榊に訊ねる。

「そういえばあんた、入部届けだしたの?」

「昨日出したよ」

早いっ。

それなら、余計にややこしくなる。

さっき、入るだの入らないだの話してたのに。

ほんと変な奴。

また、話しかける。

「じゃあ、今日からあんたのこと、榊って呼ぶから。普通だけど」

君付けするのは嫌だし。

そしたら、榊のほうは、何か文句があるらしく、

「えー、どうせなら、翔太って呼んでよ」

「それはやだ」

会話終了。

このまま、駄々こねられても嫌だし、みんなの目線が。

特に葵。

しばらくすると、みんな、楽器の準備をし始めた。

私はピアノ。

葵はギター。

南はフルート。

由奈は、どうやらトランペットらしい。

榊はというと、部屋の隅から、ヴァイオリンを出してきた。

その時、

ガラガラッと、扉が勢いよく開いた。

そして、顧問の西田先生が入ってきた。

若い、女の先生だ。

その表情は、焦りが混じっている。

「大変」

声にも焦りが含まれている。

みんなが西田先生に注目する。

そして由奈に向かって言った。

「由奈ちゃん、おばさんが・・・亡くなったんだって」

この一言から、事件の幕があけた。