無事に、音楽室に着いた。
「「今日和」」
二人そろって挨拶をしながら入る。
「こんにちわぁ」
「今日は」
二人の声がした。
奥に入る。
そこには、わが音楽部の真面目ちゃん、遠倉南さん(17)高校二年生がいた。
手にはフルートを持っていて、楽譜を開きかけていた。
こちらをむいて、ずれた眼鏡を直し、今日もほにゃーんとした感じで聞いてきた。
「あら、綾、そちらの方は誰ですか?葵には見えないので・・・」
何だか、私の後ろにいるやつに、興味があるようだ。
見かけによらず、好奇心旺盛なところがあるから。
ていうか、こんな目立つ奴がいたら、誰でも気にするだろうけど。
ちなみに南も、寮組。
それ以上は触れない。
とりあえず、榊の紹介をする。
「こいつは、榊翔太っていって、うちのクラスに転入してきたの。ちなみに、入部希望者」
紹介途中で、いきなり口出ししてきた。
「え、俺入部するって言ったっけ?」
しらばっくれている。
頭にきた。
「でもっ、入るでしょ!」
入るつもりが無いなら、ふっ飛ばしてやろう、そう決心した。
「まあ、入るけど」
機会を逃したみたいだ。
なぜか私たちのやり取りを、南はめがねの奥で、物珍しそうに見ていた。
「あのぉ」
「「何?」」
またこいつとかぶってしまった。
表情はぜんぜん違うけど。
ちなみに、榊は笑顔で私は仏頂面。
後怒り少々。
南が信じられないことを言った。
「二人は仲がいいんですね」
「どこがっ」
どの辺が仲が良く見えるのだろう。
さっきから文句ばっかしこいつに言っているのに。
一部を除いて。
「そうかなあ、俺たち、出会ったばっかだけど」
信じられないことを言う奴がここにもいた。
ふりかえって、すぐさま言った。
「でたらめなこと言うな」
まったく。
葵じゃあるまいし。
そういえば
「葵は?」
いつもなら授業が終わってすぐに来るのに。
朝言い過ぎたからかな。
「多分、今日は係会がある日でしょ。だから遅れたんでしょう」
「そうだね」
南と話していると、榊が突っ込んできた。
「ねえ、葵って誰?」
聞くと思った。
「あんたと似てて、しつこい奴」
テキトーに答えておくと、
「ふーん」
案外、あっさり返事が返ってきた。
何か考えてるようだ。
あれ?
そういえば、入ってきたときに、二人の声が聞こえたんだった。
「そういえばさ、もう一人、この部屋にいる?」
南に尋ねる。
南は、後ろを向いてから、答えた。
「いるわよ」
「え?」
私と榊は、南が見ているほうを見た。
物の陰になっていて、見えにくいが、確かにそこにいた。
初等部の制服を着た、女の子。
前髪が長い。
私は、もう一度、南に聞いた。
「この子・・・誰?」
南は、笑顔で答えた。
「もちろん・・・この部に入っている子よ」
「う・・・うそ」
私は、この二ヶ月、こんな子、見たことが無かった。
何で初等部の子が、高等部にいるのかがわからない。
すべての疑問の答えを、南が教えてくれた。
「えっとねえ、この子は、星野由奈さんよ。初等部の四年生。この二ヶ月間、家庭の事情でこれなかったの。そうよね、由奈」
「そうだよ。はじめまして。由奈です。あなたは?」
子供らしい、かわいらしい声で、由奈と言う女の子は話した。
私は、出来るだけ明るい声で、それに応える。
「私は、神埼綾。今年から、この学園に入ったの」
そうしたら、後ろにいる榊まで、自己紹介をしてきた。
「俺、榊翔太。今日転校して来たんだ。よろしくな」
相変わらずの笑顔だ。
「どうもー」
由奈も満面の笑顔で返している。
私は二人が羨ましいと思った。
あの、記憶を失った日から、私は笑うことが出来なくなった。
この二ヶ月間、一度も笑ったことは無い。
南が補足をした。
「この音楽部は、ブラスとちがって、コンクールとかに出るとかじゃなくて、ただ単純に音楽を楽しむためにあるのよね。大体の人は、ブラスやオケのほうに行くから、部員数が少ないの。それは綾も知ってるわよね」
「うん」
いつ来ても、三、四人しかいないのは事実だ。
「それで、学園長様が、学園全部まとめちゃえーって、高等部にまとめたんですって。だから、この音楽部には、初等部、中等部の生徒も入れるの」
「ふうーん、そうなんだ」
ほんとに知らなかった。
まあ、私はまだ、二ヶ月しかいないから、知らなくても当然何だろうけど。
由奈はそんな話には興味ないかのように、楽譜をあさっていた。
笑顔のまま。
数日後、私は、いや、私たちは、この由奈が発端で事件に巻き込まれることになる―