「って、あんた昨日音楽室にいなかった?」

さっきからずっと思っていたことを口にする。

「あぁ、いたよ。俺、趣味が音楽だから」

奴の顔を思いっきり睨む。

「どうかした?」

人の気持ちを知らずに。

能天気だ。

別に、と答えて言う。

「じゃあ、私が連れて行く必要ないでしょ」

「俺が一緒に行きたいと思ってるから。だからいいだろ?」

こいつはギザだ。

クラスの女子嫌がってたのに。

今日は葵がいなくて良かった、と思った。

ギザな奴にはさまれるなんて、たまったもんじゃない。

でも、一人だけなら。

どうせ、行く場所が同じだし。

そっぽを向いていった。

「勝手にすれば」

「じゃあ、遠慮なく

笑顔で言っただろうその声からは、期待と喜びが感じられた。



荷物を片付け、廊下に出る。

はっきり言って、急いで出てきた。

何故かというと、あのメアド押し付け女が、私と榊が一緒にいるところを目撃し、睨んできたからだ。

まあ、睨み返しておいたけど。

ちなみに、クラス内に友達と呼べる人間はいない。

別に、表向きだけの友達なんて、要らないし。

榊はというと、ずっと、こっちを向いて、ニコニコしている。

まあ、女子の前では、嫌そうな顔ばっかしてたから、敵対視されて当然なのかもだけど。

こんなんなら、葵と大して変わらない。

まあ、葵がいないだけでも良しとしよう。

多分朝のが効いているのだろうから。

「早く行くよ」

早口で榊に言った。

こいつは、クウォーターなだけあって、かなり目立つ。

だから一刻も早く行かないと。

「分かった」

こいつは、分かってるんだか、分かってないんだか、分からないような声で返事をした。

よっぽどうれしいらしく、葵と同様、こっちにくっついてくる。

しばらく会話が無いまま、歩き続けた。

突然榊が口を開いた。

「あのさ」

「何?」

「将来の夢を考えたことある?」

唐突な質問だった。

「多分、無いと思う」

本音で答える。

別に、将来の夢なんない。

無くても困らないし。

「そう、なんだ。俺はあるんだ」

「何なの?」

何だろう。

タレントかなんかがお似合いなのに。

しかし、返ってきたのは、予想もしない答えだった。

「俺さ・・・名探偵になりたかったんだ・・・小さいころからずっと」

その言葉を聴いて、立ち止まった。

そして、その人の顔を見てみる。

正気か?

大体、名探偵なんて職業は無いし。

探偵なら在るけど。

ありえない。

でも、正気だということは、彼の瞳の輝きでわかる。

私が呆然としているにもかかわらず、話し続ける。

「名探偵って、かっこいいじゃん。こう、簡単になぞを解いてさ。しかも、ただ、事件を解決するだけじゃない。大切な人を守り、みんなを幸せにできる・・・」

「そうなんだ・・・」

すると突然、きらきらと輝いていた瞳が曇る。

どうしたのだろう。

「でも、俺はできなかった。自分のことばっかで、隣にいた大切な人を守ることができなかった。幸せにできなかったんだ・・・」

何だろう。

彼の、悲しそうな声を聞くだけで、昨日のような感覚がよみがえる。

胸が締め付けられるような、苦しい気持ち・・・

俯く。

この気持ちを悟られたくない。

ふと、思った。

するとポン、と肩に手が置かれた。

上を見上げる。

「ごめんな。変な話して」

悲しそうな、さびしそうな顔だった。

気が楽になる。

すぅっと、苦しさが抜けていく。

「いいよ。いこっ!」

わざと明るい声を出して言う。

笑うことはできないけれど。

「そうだな・・・行こう」

だんだんと明るさを取り戻してきたみたいだ。

こいつには暗い顔は似合わない。

そう、感じた。