あーだこーだ話しながら、やっと音楽室に着いた。

中に入ろうとすると、葵が叫んでいた。

「あっ、やべー」

「ちょっと何よ」

「俺としたことが、楽譜はいったバッグ、寮に忘れてきたみたいだぜ」

「何やってんのよ。そんなんだから、勉強もできないんでしょ」

「それを言うなよぉ」

「とにかく、さっさと行ってこいっ」

「はぁい♪」

じゃあまた、と言い残して、走り去っていった。

全く、世話のかかる奴だ。

このまま、次のテストでドベになればいいんだ。

うん、そうだ。

このまま葵を待っていても、きりがないので(寮は、前にも言ったとおり、ちょっと離れた場所にある)、中に入ることにした。

今日は、あの馬鹿が早くやってきたから、ちょっと早かったかもしれない。

まあ、別にいいけれど。

ガラガラッ

扉を引いて開ける。

「今日和」

挨拶をしながら中に入った。

たぶんまだ、誰も来ていないはずだ。

「あれ?」

グランドピアノの椅子に、誰かが座っている。

部員かと思ったが、違うみたいだ。

それ以前に、ピアノを弾くのは、私しかいない。

それでも、その誰かは、そこに座っていた。

ポーン

ピアノの良く通る音がした。

座っている誰かが、私を見た。

そこには一人の少年がいた。

長めの真っ黒な髪。

それなのに、瞳は澄んだ蒼。

綺麗な顔つき。

目線があう。

彼は微笑んでいる項にも、悲しんでいるようにも見える。

「え・・・?」

彼としばらく見つめ合っていた。

なぜだろう。

心の奥が、じんとしてきた。

彼のことを知っているはずがないのに、胸が苦しくなる。

彼の唇が開きかけた。

「・・・っ」

目線をそらす。

ここに居たくない。

その気持ちが、私の感情を支配して、

気がつくと、音楽室から飛び出していた。

廊下であるのもかかわらず、全速力で走った。

靴箱ですぐさま靴に履き替え、校舎からも飛び出した。

部活のことも忘れ、走り続けた。

途中で葵とすれ違った気もした。

寮に着くと、すぐに、自分の部屋に飛び込んだ。

「はぁっ、はぁっ」

息が苦しい。

その場に座り込む。

なぜか涙があふれてきた。

長い髪や、制服がぐちゃぐちゃになっているのに、気にならなかった。

嗚咽が漏れる。

まるで、自分じゃないみたいな気持ちがあふれる。

どうして・・・

彼はいったい・・・

私は長い間、うずくまっていた。