1 -転校生-
退屈な日常。
うるさい毎日。
もう、慣れていた。
ずっと、このままでいいと思っていた。
キーンコンカーンコーン
終業のチャイムが鳴り、退屈な授業が終わった。
既に、校舎から飛び出し、帰っていく生徒もいる。
此処は四葉学園。
比較的大きな私立の学校だ。
初等部、中等部、高等部があり、少し離れたところには寮もある。
それに事情があって家をなくした人も受け入れてくれたり、奨学金まで出してくれる。
週に一度、心理カウンセラーも来るらしい。
何でも、初代学園長様が大金持ちだったとかで、ほとんどボランティアみたいな感覚でつくったらしいのだ。
世の中には理解できない人もいる。
まあ、そのおかげで私は此処にいることができるのだけど。
そう、私―――――神崎綾は、住むところ―――家族を無くして、此処にきた。
ちょうど2ヶ月前――――普通なら、高校に入るための準備をするはずの春休みに。
「えーこれで本日の授業を終わる」
起立、礼という号令がかかり、私のクラスの授業も終わった。
担任が大量の荷物を持って教室を去っていくのが見えた。
重そうだ。
「さて、と」
他の生徒も片づけを始めたようだ。
学習道具を片付けるために私も席を立ち、鞄をロッカーから取り出して机の上に置いた。
椅子に座り、鞄を開けて教科書などを入れようとすると、
「ん?何だこれ」
朝は気づかなかったが、鞄の奥のほうに何か変なものが入っていた。
いつ入れたんだろう。
それを取り出してみてみる。
数秒間それを睨みつける。
・・・私はそれを入れた記憶がない。
というよりも、それを見たこと自体の記憶がない。
その物体はご丁寧に、ラッピングされている。
余計にわけが分からなくなった。
それをずっと見ているわけにもいかないので、中身を見てみる。
「・・・・・」
私はそれをみると、固まってしまった。
心なしか、私の席の近くの人達が”それ”に注目しているような気がする。
・・・正直言うと、かわいい。
”それ”はかわいい。
のだが、私の鞄の中に入っていること自体がおかしいモノだった。
あまりにも自分のイメージとかけ離れている。
そう、これは・・・。
「・・・・・」
私が絶句していると、
「あっやや~ん♪」
変な声がした。
隣から。
別に聞きたくなかったが、聞こえてしまった。
かかわりたくなかったから無視をしようと思ったが、今自分が持っているモノのことを思い出した。
「早くいこ~よぉ」
とっさに振り向く。
そしてそいつを睨みつける。
「あんた・・・何でここにいるのよ。隣のクラスでしょ。いちいちくるな。邪魔」
まだ終わってから一分もたっていないはずだ。
しかもこいつは隣のクラスなのだ。
人のクラスに勝手に入っていいわけがない。
それでもこいつは平然と、むしろここが自分のクラスかのように、勝手に隣の席に座っている。
もっとも、そこは誰の席でもないのだけれど。
「綾ってばひどいなぁ。会いたかったから来ただけなのに」
・・・ギザな奴。
そこには、私の鞄に中に、この変なもの(手作りのお人形)を入れただろう、北村葵とかっていう、鬱陶しくて、金髪で、でかくてちゃらちゃらしてる奴がいた。
「まったく、あんたってやつは・・・。それより、これって何よ。あんたがしたんでしょ?」
奴の目の前に、ラブリーでかわいらしいお人形を突き出した。
絶対これはこいつの仕業だ。
それ以外にする人はいない。
一瞬きょとんとしたが、
「愛情表現に決まってるだろ。綾のために作ったんだし」
葵はにっと笑って平然と答えた。
しかもありがたくない答え。
そんなこと今する必要があるのか?
・・・本当に考えていることが分からない。
それに自分がやったって認めたし。
手作りらしいし・・・。
正直に今思っていることを言う。
「どこが?それに何時何処でどのようにして入れた?それに愛情表現なんてしなくていい。気持ち悪いし。分かった?」
立て続けに質問攻めだ。
まあ、最後のは要望だけど。
葵は葵で「どこが?」という質問にしか答えるつもりがないらしく、
「このへん?」
と本気で指を指している。
正真正銘のアホだ。
「・・・まったく。これ返す」
人形を葵に押し付ける。
が、葵は空気が読めないらしく(特に私の)、くだらない質問をしてきた。
「あややんてこんなの好き?綾ってかわいーから似合うと思うんだよな。こういうの。それになんか綾に似てない?」
私はいつまでも馬鹿な会話を続けるつもりはない。
とっとと終わらそう。
そうしないといつまでたっても前に進めやしない。
人形を葵から取り上げ、教室の前のほうを狙って、投げた。
するとちょうどゴミ箱に入った。
ナイスだ私。
「ギャーッ、徹夜で作ったのにっ」
葵はバンと音を立てて、勢いよく椅子から立ち上がった。
「はっ」
いい気味だ。
人形には悪いことをしたけど。
まあ、何にも犠牲はつき物だ。
「酷いよぉ」
葵は今にも泣きそうな顔をしている。
男らしくない。
「別にいいでしょ」
「よくないよぉ」
私の肩をつかみ、揺らし始めた。
「ちょっと、いい加減にしろっ」
まったく。
本当に疲れる。
仕方がないので、
「あうっ」
ガンッ、と葵の頭を蹴飛ばした。
葵はというと、声がしないからたぶん、気絶したのだろう。
自業自得。
やっと落ち着いたので、片づけをはじめた。
時計を見ると、もう五分が経過している。
葵の奴め。
てきぱきと道具を鞄に入れて、椅子から立ち上がった。
準備はできた。
「よしっ、いくよ」
葵の体を蹴飛ばして、教室を出る。
「あ・・・や・・・」という声が聞こえたような気もしたが、気にしない。
ちなみに、今の出来事は日常茶飯事なので、もう誰も気にしない。
皆さん、二ヶ月の間にいろいろ学んだようだ。
いちいち私たちのことを気にしていたら大変だろう。
もっとも、私は別に葵と遊んでいるわけでも、ふざけているわけでもないのだけれど。
しかもいつもあいつのほうから仕掛けてくるのだし。
私は早足で音楽室に向かった。
どうして音楽室かというと、私は音楽部に入っているからだ。
残念ながら・・・葵も一緒だ。
というより、音楽に興味があって音楽室に行ってみたら、奴がいて無理やり入れられたのだけど。
ちなみに音楽室は隣の校舎にある。
したがってこの教室からは遠い。
「あっ、待ってくれよぉ!」
遅れて葵ががやってきた。
・・・長い間こいつと一緒に歩かなくてはいけない。
しかも何気に私の隣に並んで歩いていたりする。
「ちょっと、くっつかないでよ」
「いいじゃん。別に減るもんじゃないし」
「心が減るってば」
「じゃあ、俺があげるよ」
・・・まったく。
私達は、こんな、何気ない会話をしながら歩いた。
音楽室に着いたのは、それからしばらくたってのことだった。
そこで今までの―――この二ヶ月間の日常を覆す出会いをするなんて、思いもしなかった。
そう、全く、考えもしなかった。